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連載コラム:ミレーナ物語 オリジナル総集編

2022.04.30

ミレーナ物語

神戸大学名誉教授(産科婦人科学)丸尾 猛

 

目次

ミレーナ物語(1)我が国で装着1例目の女性の生の声『天国です』に導かれ

ミレーナ物語(2)装着後に過多月経が劇的に改善するミステリーの解き明かし

ミレーナ物語(3)装着により筋腫は縮小するのか?を経て、いよいよ認可

ミレーナ物語(4)生理の苦しみから救うミレーナの強みは?欠点は?

ミレーナ物語(5)ミレーナが動機付けた研究から新治療薬の提唱

ミレーナ物語(6)ミレーナに触発された橋渡し研究で女性の健康増進

ミレーナ物語(7)ミレーナ物語に欠かせない二人の恩人

ミレーナ物語(8)橋渡し研究で大きな戦力となった外国人留学生

 

 

ミレーナ物語(1) 我が国で装着1例目の女性の生の声「天国です」に導かれ

神戸大学名誉教授(産科婦人科学)丸尾 猛

私とミレーナとの関わりは、ロックフェラー財団研究員として3年間留学した米国ロックフェラー大学 Population Councilから1992年に国際研究委員に指名され、神戸大学病院での国際共同臨床試験用に米国から提供を受けたのが発端である。

ミレーナは長期避妊用にフィンランドで開発されたもので、低用量ピルの成分レボノルゲストレルを5年間持続的に放出するよう設計された子宮内システム(IUS)である。1992年当時、我が国では非薬剤付加型の子宮内避妊器具(IUD)しかなかったため、低用量ピル的効果とIUD効果を併せ持つ薬剤徐放型IUSのユニークな設計に魅かれ、ミレーナの日本女性における長期避妊の有効性・安全性を確かめる臨床試験を開始した。

そのような折、たまたま安全・確実な長期避妊法を求めて神戸大学病院を受診された患者さんに、試験参加への同意を得て、1992年我が国で初のミレーナ装着を行った。装着後、試験スケジュールに沿って経過を観察していた折、その患者さんから

生理の度ごとに怖かった大量出血と下腹痛が嘘のように無くなりました。出血量は目薬を落とすほどに激減し、生理痛もなくなり本当に助かっています。今は天国です

との全く予期していなかった喜びの言葉を頂いた。安全・確実な長期避妊を目的にミレーナを使用した1例目の患者さんが、たまたま子宮筋腫合併による過多月経と生理痛で長く苦しまれてきた女性であった。 ミレーナ装着1例目の患者さんから出た生の声は、担当医の私には予期せぬ大きな驚きであったが、ミレーナは生理の度ごとに出血多量と強い痛みで苦しまれている女性のQOL(生活の質)を大きく改善するに違いないと想い至らせた。ミレーナには過多月経と生理痛の苦しみから女性を解き放つ力があると考えるに至った瞬間である。

ミレーナは安全・確実な長期避妊を目的に開発されたものであり、1992年当時、子宮筋腫や腺筋症合併女性への子宮内避妊器具(IUD)装着は禁忌であるとの見方が主流であった。実際、私がPopulation Councilの国際共同研究委員会で、子宮筋腫・腺筋症による過多月経・生理痛の治療にミレーナを応用したいと、その臨床試験の計画案を発表した際、ミレーナ使用経験が豊富なフィンランドの教授から強い反対の意見が出た。しかし、座長のPresidentから「ミレーナ装着によって月経量が目薬を落とす程度に激減し、生理痛も消失して、本当に助かっています。」との患者さんの生の声には説得力があり、耳を傾けるべきであるとの指摘があり、反対意見を抑えて計画が承認された。こうして過多月経・生理痛で苦しむ子宮筋腫・腺筋症合併女性へのミレーナ使用の臨床試験が神戸大学病院で行えることになった。

まさにミレーナを契機とした患者さんとの出会いに感謝である。患者さんからの生の声が力となり、生の声に導かれて、過多月経・生理痛で苦しむ女性の治療法としてミレーナを応用する臨床試験にゴーサインが出た。これがミレーナ物語の始まりである。

(付記:この時のゴーサインから22年後の2014年ミレーナは過多月経・月経困難症に保険適応となる。)

 

ミレーナ物語(2)装着後に過多月経が劇的に改善するミステリーの解き明かし

神戸大学名誉教授(産科婦人科学)丸尾 猛

1992年にスタートした米国ロックフェラー大学 Population Councilと神戸大学産婦人科の国際共同臨床試験で、子宮筋腫・腺筋症による過多月経・月経痛はミレーナ装着によって劇的に改善することが明らかとなった。

当時、ミレーナは神戸大学病院でしか使用できなかった。そのため、ミレーナによる過多月経の劇的改善を取り上げた専門誌の記事を見て、東京から、名古屋から過多月経で苦しまれていた子宮筋腫合併女性がミレーナを使用してみたいと受診された。その中には、子宮筋腫による生理時の大出血で緊急入院し輸血まで受けられた方がおられた。その患者さんは

「手術療法をすすめられたが手術は受けたくないのです。ミレーナを試して改善がなければ、その際は断念しますが。」

との想いを語られた。幸い、ミレーナ装着によって月経出血量が減少し、次第に貧血も改善して正常化し、5年間の経過観察中に閉経となり、手術から逃れることができた。他方、子宮腔内に突出する形で発育する粘膜下筋腫を合併した方では、ミレーナ装着によって月経出血量は減少するが、ミレーナの自然脱出が約1/3の頻度で起こり、再挿入の希望を受けて再装着するも脱出し、何回か脱出・再装着を繰り返した後に、ミレーナによる治療を断念したケースもあった。粘膜下筋腫以外の筋腫合併例では、ミレーナが奏功し、ミレーナ使用期間は5年間であることから5年経過後に入れ替えて経過を観察中に閉経となり、手術から逃れることができ、患者さんに喜んでいただけた。

ミレーナ装着によって過多月経が劇的に改善することを目の当たりにして、何故、ミレーナ装着が月経時出血量を激減させるのか、そのミステリーを解明したいとの思いに駆られた。月経時出血量の激減は、ミレーナ装着により子宮筋腫が縮小するためなのか?子宮内膜に変化が引き起こされる結果なのか?全く謎であった。ただ、ミレーナ装着後の観察で、筋腫サイズの縮小は判然としなかったため、子宮内膜の変化に目を向け調べることにした。

ミレーナの過多月経改善効果が明白となって、以前に臨床試験計画を発表した際には、筋腫合併女性へのミレーナ装着に反対だったフィンランドの教授の協力が得られることになった。大変有り難いことに、フィンランドの大学病院で採取されたミレーナ装着前の子宮内膜組織と装着3か月後の子宮内膜組織を神戸大学病院へ送っていただけることになった。届けられた子宮内膜組織の細胞増殖能とアポトーシス(細胞死)を比較・検討した結果、ミレーナによる月経時出血量激減の謎の一端が明らかになった。

すなわち、子宮腔内にミレーナを装着すると、ミレーナから放出される合成黄体ホルモン(レボノルゲストレル)が子宮内膜へ直接働き、子宮内膜細胞の増殖を抑えアポトーシスを促して、子宮内膜を萎縮させ、月経量が激減することを世界に先駆けて明らかにすることができた(Human Reproduction 2001 ; 16 : 2003)

この知見は “Unraveling Mirena’s molecular mystery(解き明かされるミレーナの分子ミステリー)”として写真入りで紹介され、国際的に高い評価を受けた(Population Briefs 2003; 9(1):4)。実際、オックスフォード大学から子宮内膜に関する国際シンポジウム共催の申し出が入り、「子宮内膜の分子細胞学」と題したKobe-Oxford シンポジウムを神戸で開催することになった。、世界15か国のエキスパートと知見を共有し討議できたのは、基礎的知見を過多月経・生理通の治療にいかにフィードバックするかを考える上で大変有意義であった。

1992年に確実な避妊を目的に我が国で初めてミレーナを装着した女性から、

ミレーナ装着後はまさに天国です

との喜びの言葉を頂いた。この生の声に導かれてスタートした臨床試験で、ミレーナ装着は過多月経・生理痛を劇的に改善し、手術療法にとって代わる治療法となることが確かめられた。ミレーナ使用の拡がりは女性のQOL向上に大きく貢献すると信じる。

(次項につづく)

 

ミレーナ物語(3)装着により筋腫は縮小するのか?を経て、いよいよ認可

神戸大学名誉教授(産科婦人科学)丸尾 猛

 

ミレーナは過多月経・生理痛を劇的に改善するが、子宮筋腫合併女性に装着した場合、筋腫は縮小するのか?

の問いは真っ先に浮かぶ疑問である。筋腫合併女性の過多月経・生理痛がミレーナで劇的に改善したことから、当初、筋腫はミレーナ装着によって縮小するに違いないと推察した。しかし、ミレーナ装着前と装着1年後の筋腫のサイズをMRIで調べてみると、症状は見事に改善しているものの、筋腫サイズは小さくなったのが1/3、変わらなかったのが1/3、大きくなったのが1/3で、ミレーナの筋腫サイズへの影響は定かではなかった。このことから、ミレーナによる過多月経・生理痛の改善は、筋腫の縮小によるものではなく、前項で述べた通り、ミレーナから放出される合成黄体ホルモン(レボノルゲストレル)が子宮内膜に直接作用して、子宮内膜を萎縮させる結果であることが判明した。

一方、ミレーナの長期避妊法としての有効性と安全性は、ミレーナの特性を理解し企業として協力いただいた製薬会社の支援のもとに、全国69施設が参加した多施設臨床試験を行って検討した。その結果、ミレーナは日本女性にとっても安全で確実な長期避妊法であることが確認された(丸尾 猛ほか:診療と新薬 2006 ;43 : 1157)。

このように、ミレーナは、安全・確実な長期避妊法であるだけでなく、過多月経・生理痛で苦しむ女性には生理に伴う苦しみから解き放つ治療法となることが分かり、女性のQOLを高めるに違いないと考え、我が国への早期導入を目指した。賛同いただいた製薬会社の尽力によって、

ミレーナは1992年の臨床試験開始から15年後の2007年に認可(避妊用)され、22年後の2014年に過多月経・月経困難症に保険適応となった。

患者さんの生の声に端を発した22年間の軌跡に感無量である。

臨床試験で、ミレーナから放出される合成黄体ホルモン(レボノルゲストレル)の筋腫サイズに及ぼす影響が定かでなかったため、筋腫の発育に黄体ホルモンはどのように関わっているのかを知りたい衝動に駆られた。そこで、子宮筋腫細胞の培養系をつくり、培養された筋腫細胞の増殖能とアポトーシス(細胞死)に及ぼす黄体ホルモンの影響を調べることになった。ミレーナの臨床試験で得られた知見が黄体ホルモンの筋腫発育に及ぼす影響を細胞レベルで調べる基礎研究へと導いた。このミレーナによって導かれた基礎研究が私のライフワークの重要な位置を占めることになる。

2007年4月に京都で主催した第59回日本産科婦人科学会の会長講演では、「師に導かれ、患者に学びて」と題して、ミレーナ装着1例目の患者さんの生の声が引き金となったミレーナ・過多月経・子宮筋腫・黄体ホルモン物語を述べた。患者さんから学んだことは多大であった。まさに出会いに感謝である。この学会の終了翌日に、東京で報道関係者を対象にミレーナの発売記念講演を行った。

いよいよ日本女性へのミレーナの使用がスタートした。

これがミレーナ物語の中締めである。

(次項につづく)

 

ミレーナ物語(4)生理の苦しみから救うミレーナの強みは?欠点は?

神戸大学名誉教授(産科婦人科学) 丸尾 猛

ミレーナは2007年に自費診療(避妊)で認可され、2014年に過多月経・月経困難症の治療として保険適応となった。

ミレーナは低用量ピルの高い避妊効果と子宮内避妊器具(IUD)の長期間にわたる避妊効果を併せ持つ製剤である。1992年に米国から提供されたミレーナを避妊目的に我が国で初めて装着した女性から、生理時の恐ろしい出血と痛みがなくなり、「今は天国です」との喜びの言葉を頂いた。この時はじめて、ミレーナは過多月経・月経困難症の治療法になるのではと思い立った。

まさに、患者さまから学び、教えられて、生まれた治療法である。

当時は子宮筋腫女性へのIUD装着は禁忌とされていた。しかし、患者さんの「今は天国です」との生の声が力となって、例外的に、ミレーナを子宮筋腫・腺筋症による過多月経の治療に応用する臨床試験が承認された。それから22年要したが、2014年に生理で苦しむ女性にミレーナが保険適応となった。

ミレーナは、生理で苦しむ女性が使用すると、過多月経・月経困難症の有効な治療法となるが、元来、健常女性の長期避妊法として安全性が保証された製剤であるのが強みである。

子宮筋腫や子宮腺筋症による過多月経・月経困難症はミレーナ装着によって速やかに改善する。特に、子宮腺筋症では脱出が少なく、治療効果は抜群である。ただ、子宮腔内に突出して発育する粘膜下筋腫は例外で、ミレーナの脱出や予期せぬ大出血をみることがあり、注意が必要である。

ミレーナは5年間有効であるため、例えば40歳時に装着し、5年毎に入れ替えて閉経となれば、過多月経との闘いに勝ったことになる。子宮筋腫・腺筋症に対して手術療法をすすめられてきた女性は手術から確実に逃れられる。

ミレーナは5年に1回交換するだけで安定した効果を発揮し、治療用ピル服用時に懸念される飲み忘れの心配がなく、血栓症リスクもないのが強みである。

GnRHアゴニストの皮下注射や鼻腔投与による偽閉経療法では、エストロゲンが低下するため骨量減少への注意が必要で、6か月限定の投与を繰り返すことになる。

ミレーナではエストロゲン低下が起こらないため、骨量減少のリスクがないのが強みである。

閉経の前後には、エストロゲン低下に伴い様々な更年期症状に見舞われることが多く、更年期症候群の治療にはホルモン補充療法(HRT)が有効である。この際、子宮がある女性にエストロゲンのみを投与すると子宮体がん発生の恐れが高まるため、黄体ホルモンの併用・補充が不可欠となる。

しかしミレーナ使用中の女性に更年期症状が出てHRTが必要になった場合には、ミレーナから黄体ホルモンが徐放性に放出されているため、黄体ホルモンの補充は必要なく、エストロゲンのみの投与(貼り薬、クリーム)でよいのが強みである。

ミレーナ使用中に閉経となった際には、そのまま有効期間(5年間)装着しておけば、ミレーナから放出される黄体ホルモンが子宮内膜の増殖を抑え、子宮体がん発生の予防になる。これもミレーナの強みである。

ミレーナの欠点は?

欠点は装着から数か月間しばしば不規則な極少出血がみられることである。

この欠点さえ許容できれば、ミレーナは過多月経・月経困難症で苦しむ女性にとって副作用が少ない優れた長期治療法になり、子宮筋腫・腺筋症への手術を回避することができる。これがミレーナの強みである。

(次項につづく)

 

ミレーナ物語(5)ミレーナが動機付けた研究から新治療薬の提唱

神戸大学名誉教授(産科婦人科学)丸尾 猛

筋腫女性の子宮腔内にミレーナを装着すると、ミレーナから放出される合成黄体ホルモンが子宮内膜へ働き、内膜細胞の増殖が抑えられて子宮内膜が薄くなり、生理出血量が激減した。しかし、筋腫のサイズは縮小したものもあれば増大したものもあったため、黄体ホルモン(プロゲステロン;P)の子宮筋腫細胞への作用を調べたいと思い立った。

Pは子宮内膜細胞の増殖を著しく抑えたことから、当初、筋腫細胞でもPは増殖を抑えるのであろうと予想した。しかし、子宮筋腫細胞の培養系でPの作用を調べてみると、Pは、当初の予想に反し、筋腫細胞の増殖を高め、アポトーシス(細胞死)を抑え、筋腫細胞の発育を促進することが明らかとなった。つまり、Pは子宮内膜では増殖を抑制したが、子宮筋腫では、逆に、発育を促進することがわかり、プロゲステロン拮抗薬として働く選択的プロゲステロン受容体修飾薬Selective Progesterone Receptor Modulator(SPRM) が子宮筋腫の発育を抑制するのではないかと推察されるに至った。

この知見は画期的で、国際的に大きな注目を浴び、米国、イタリア、フランス、イスラエル、カナダでの講演に招かれた。その講演が契機となって、米国の1社からSPRM・アソプリスニルについて、フランスの1社からSPRM・ウリプリスタルについて、子宮筋腫細胞への作用を調べてほしいとの研究依頼を受けた。

そこで、子宮筋腫細胞培養系で依頼された2種類のSPRMの作用を調べると、2つのSPRMはともに筋腫細胞のアポトーシス(細胞死)を高め、増殖を抑え、血管新生因子ならびに細胞外マトリックスの産生を抑えることが明らかとなった。この基礎研究が橋渡しとなり、SPRMが子宮筋腫の新しい治療薬になる可能性が注目されることになった。研究の展開を知ったオックスフォード大学から再びシンポジウム共催の申し入れがあり、「Translational Research in Uterine Biology」と題した国際シンポジウムを神戸で開催し、論文集をElsevier社から出版して(写真)SPRMによる子宮筋腫治療の可能性を世界に向けて提唱した。

実際、その後欧州で、過多月経・月経痛を訴える子宮筋腫女性を対象にSPRMの大規模臨床試験が行われ、ウリプリスタルの経口投与によって、エストロゲン低下を起こすことなしに、筋腫は縮小し、過多月経・月経痛も改善することが確認された(N Engl J Med 2012 ; 366: 421)。こうして子宮筋腫の新治療薬として、まずウリプリスタルが実用化され、2018年に欧州で、2019年に米国で、過多月経を有する症候性子宮筋腫に対して承認された。日本でも臨床試験を経て、2019年にウリプリスタルの承認申請がなされたが、欧州で重篤な肝障害事例が発生し、新規承認が困難となったのは残念であった。欧州では限定された適応症での承認が維持されている。

ミレーナは徐放性に放出される黄体ホルモンが子宮内膜に働き内膜組織を萎縮させて過多月経を改善するが、他方、SPRM(選択的黄体ホルモン受容体修飾薬)は子宮筋腫に働き筋腫自体を萎縮させて過多月経を改善する。SPRMは多種開発されており、今後、安全性で問題のないSPRMが見い出され、症候性子宮筋腫の治療に使用できる日が来ることを待ちたい。

子宮筋腫の新治療薬提唱に繋がる一連の研究はミレーナに動機付けられたものであり、ミレーナとの出会いに感謝、感謝である。

 

ミレーナ物語(6)ミレーナに触発された橋渡し研究で女性の健康増進

神戸大学名誉教授(産科婦人科学)丸尾 猛

1992年に我が国で初めてミレーナを装着した子宮筋腫女性の「今は天国です」の声が引き金となって、長期避妊用に開発されたミレーナを過多月経の治療に応用する臨床試験をスタートさせた。ミレーナ装着によって過多月経は確かに劇的に改善したが、筋腫サイズは必ずしも縮小せず,1/3の筋腫は増大した。ミレーナ装着で過多月経が劇的に改善したことから、当初はミレーナ装着に伴い筋腫は縮小していくに違いないと想定していたため、1/3の筋腫に増大が見られたのは大きな驚きであった。

臨床試験で驚きの知見を得て、ミレーナから放出される黄体ホルモンが子宮筋腫の発育にいかに関わっているかを基礎研究で解明したい思いに駆り立てられた。

細胞レベルでの基礎研究を進めたところ、黄体ホルモンは筋腫細胞の発育に対して促進的に働くことが明らかになった。この基礎研究での画期的な知見から、黄体ホルモン拮抗薬として働く選択的プロゲステロン受容体修飾薬Selective Progesterone Receptor Modulator(SPRM)が子宮筋腫の新しい治療薬になりうることを提唱するに至った。

ミレーナを用いた臨床(ベットサイド)での知見から基礎(ベンチ)研究へと導かれ、基礎(ベンチ)研究で得られた知見を臨床(ベッドサイド)での治療にフィードバックする橋渡し研究(Translational Research)に関わることができたのは大きな幸せであった。

産科婦人科専門の国際誌からSpecial Editorial執筆の依頼を受け、「Translational research in women’s health: From bedside to bench and from bench to bedside」のタイトルで、ミレーナが橋渡しをした一連の研究が女性の健康増進に繋がる喜びについて述べた。

1992年の神戸大学病院での臨床試験開始から2014年の過多月経・月経困難症への保険適応まで22年を要したが、ミレーナ装着で生理を全く気にすることなく日常生活が送れるようになれば、女性のQOLは大きく向上すると信じる。

さらに口から飲む子宮筋腫治療薬(SPRM)の実用化が進み、子宮筋腫による過多月経・月経困難症に対する治療法の選択肢が一層増えることを期待したい。

 

ミレーナ物語(7)ミレーナ物語に欠かせない二人の恩人

神戸大学名誉教授(産科婦人科学)丸尾 猛

ミレーナは2007年に認可された。その15年前の1992年から神戸大学病院でミレーナを使用できたのは米国ロックフェラー大学Population Councilから臨床試験用に提供されたおかげである。ここで、ミレーナ物語に欠かせない二人の恩人を振り返りたい。

1.Sheldon Segal先生

Segal先生はロックフェラー大学Population Council研究所の初代Directorで、1977年から3年間私をロックフェラー財団研究員として受け入れて下さり、米国留学の機会を与えていただいた

ロックフェラー大学は野口英世博士が活躍した研究所で、3年間の留学がミレーナ物語の起点となっている。

Segal先生のリーダーシップのもとに黄体ホルモン徐放型の皮下埋め込み式インプラント・Norplant がPopulation Councilで開発された。Norplantは、マッチ棒サイズのインプラントを上腕皮下に埋め込み、黄体ホルモンを徐放性に放出させて5年間の長期避妊を可能にする製剤である。サイラスティック膜から黄体ホルモンを5年間にわたり徐放性に放出させる技術を子宮内システム(IUS)に導入したのがミレーナである。

画期的な薬剤付加型IUS・ミレーナの開発は、長期避妊インプラント・Norplantの技術を応用することによって初めて可能となったもので、Segal先生はミレーナ物語に欠かせない恩人である。

1996年の神戸大学産科婦人科学教室主催の記念祝賀会に主賓として出席していただいた。

2.Wayne Bardin先生

Bardin先生はPopulation Council研究所の2代目Directorで、1988年の国際内分泌会議(京都)の招請講演者として来日された。丁度その年、私は内分泌学会からMorning Star Award(研究奨励賞)を授与され、国際内分泌会議の場で受賞講演を行う機会に恵まれた。

講演を聴いて下さったBardin先生から、後日、Population Council国際研究委員に指名したいとの申し入れが届いた。日本人として初めての指名で、1991年からニューヨークでの国際研究委員会に年2回(4月と10月)招かれることになった。それ以来20年間にわたり国際研究委員会に招かれ、共同研究を続ける過程で出会った友人は私の人生の宝物となっている。

1991年当時は黄体ホルモン徐放型インプラント・Norplantが実用化され、大きな脚光をあびている時期であった。Population Councilと国際共同研究を開始するにあたり、黄体ホルモン徐放型子宮内システム(IUS)のユニークさに魅了され、ミレーナの臨床試験を行うことにした。当時、子宮筋腫女性への子宮内避妊器具(IUD)装着は禁忌とされていたが、ミレーナ装着患者さんの「今は天国です」との喜びの声は無視できないと、Bardin座長が子宮筋腫女性の過多月経治療にミレーナを応用する臨床試験にゴーサインを出して下さった。

Bardin座長の決断で1992年からミレーナによる過多月経治療の試みが神戸大学病院で動きはじめた。それから15年後の2007年に認可され、2014年には過多月経・月経困難症に保険適応となった。Bardin先生の決断がなければ、ミレーナは安全・確実な長期避妊法との認識で止まっていたと考えられ、Bardin先生はミレーナ物語に欠かせない恩人である。

1996年の記念祝賀会にはSegal先生と一緒に出席していただいた。(写真は記念祝賀会に来日された際、有馬の庭園で撮ったものである)

二人の恩人との出会いを振り返り、私の好きな言葉「生かされて、生きる。」を改めて実感し、出会いに感謝するこの頃である。

 

ミレーナ物語(8)橋渡し研究で大きな戦力となった外国人留学生

神戸大学名誉教授(産科婦人科学)丸尾 猛

1991年Population Council国際研究委員会メンバーに指名され、1992年からミレーナの臨床試験を神戸大学病院で開始した。当時Population Council理事であられた坂元正一先生(元東京大学産科婦人科学主任教授)から、「日本は米国留学で大変お世話になってきた。これからはアジアの留学生を日本が受け入れる番である。受け入れの財源支援はするので、留学生を受け入れて指導をされたい。」とのお話を頂き、先生の口添えで奨学寄附を大学に入れてもらえることになった。

時を同じくして、中国での講演に招かれ、歓迎夕食会の場で隣の席の先生から愛弟子を留学させたいので受け入れてほしいとの要請を受けた。要請者が坂元先生の友人であった偶然も重なり、中国・成都からの産婦人科医が私の受け入れた最初の留学生になった。その時の要請者は、20年後にケープタウンで開催されたFIGO(国際産婦人科連合学会)総会でFIGO Vice President立候補者4名の一人として決戦投票で私と票を争うことになった。予期せぬ成り行きに驚き、人の出会いの不思議を痛感させられた。

2002年から神戸大学医学研究国国際交流センター長を兼務したこともあり、中国、フィリピン、インドネシア、パキスタン、サウジアラビア、エジプト、チェコ、スイスから多数の留学生を迎え入れることになった。特に、フィリピン、中国からは同時期に各2-3名の留学生が大学院生として頑張ってくれた。

研究経験がない状況での受け入れであったが、神戸大学産科婦人科学教室の准教授、講師、助教のスタッフが熱心に指導に当たってくれたおかげで、言葉の壁を乗り越え、短期間で実験手技を習得し、見事な研究成果を挙げてくれた。

多数の外国人留学生の加入があった頃は、ちょうどミレーナの臨床試験で浮かび上がった疑問を基礎研究で解明したい思いに駆られていた時期であった。

新しい研究テーマが次々と生まれ、得られた研究結果について留学生と討議しては次のステップに進むという日々で、多忙を極めたが、大変充実した時期であった。

ミレーナの臨床で得られた知見から基礎研究へと動き、基礎研究で得られた知見を臨床へ橋渡しする研究において、留学生たちは基礎研究を深める上で大きな戦力になってくれた。

その研究成果は、留学生を筆頭著者としてJournal of Clinical Endocrinology and Metabolismに15論文、Human Reproductionに3論文が掲載され、選択的黄体ホルモン受容体修飾剤(SPRM)が子宮筋腫細胞の発育を抑制し子宮筋腫の新しい治療薬となりうることを世界に先駆けて提示した。優れた研究実績に対して医学博士の学位が授与され、それぞれの国で教授に就任し活躍中の仲間が多いのは嬉しい限りである。

国の内外の仲間との出会いを振り返り、私の好きな言葉「生かされて、生きる。」を改めて実感し、お世話になった仲間に感謝し、良き出会いに心から感謝するこの頃である。

(写真は2003年に11名の外国人留学生と一緒に神戸大学病院前で撮ったものである。)