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ミレーナ物語(6)ミレーナに触発された橋渡し研究で女性の健康増進

2022.03.28

神戸大学名誉教授(産科婦人科学)丸尾 猛

1992年に我が国で初めてミレーナを装着した子宮筋腫女性の「今は天国です」の声が引き金となって、長期避妊用に開発されたミレーナを過多月経の治療に応用する臨床試験をスタートさせた。ミレーナ装着によって過多月経は確かに劇的に改善したが、筋腫サイズは必ずしも縮小せず,1/3の筋腫は増大した。ミレーナ装着で過多月経が劇的に改善したことから、当初はミレーナ装着に伴い筋腫は縮小していくに違いないと想定していたため、1/3の筋腫に増大が見られたのは大きな驚きであった。

臨床試験で驚きの知見を得て、ミレーナから放出される黄体ホルモンが子宮筋腫の発育にいかに関わっているかを基礎研究で解明したい思いに駆り立てられた。

細胞レベルでの基礎研究を進めたところ、黄体ホルモンは筋腫細胞の発育に対して促進的に働くことが明らかになった。この基礎研究での画期的な知見から、黄体ホルモン拮抗薬として働く選択的プロゲステロン受容体修飾薬Selective Progesterone Receptor Modulator(SPRM)が子宮筋腫の新しい治療薬になりうることを提唱するに至った。

ミレーナを用いた臨床(ベットサイド)での知見から基礎(ベンチ)研究へと導かれ、基礎(ベンチ)研究で得られた知見を臨床(ベッドサイド)での治療にフィードバックする橋渡し研究(Translational Research)に関わることができたのは大きな幸せであった。

産科婦人科専門の国際誌からSpecial Editorial執筆の依頼を受け、「Translational research in women’s health: From bedside to bench and from bench to bedside」のタイトルで、ミレーナが橋渡しをした一連の研究が女性の健康増進に繋がる喜びについて述べた。

1992年の神戸大学病院での臨床試験開始から2014年の過多月経・月経困難症への保険適応まで22年を要したが、ミレーナ装着で生理を全く気にすることなく日常生活が送れるようになれば、女性のQOLは大きく向上すると信じる。

さらに口から飲む子宮筋腫治療薬(SPRM)の実用化が進み、子宮筋腫による過多月経・月経困難症に対する治療法の選択肢が一層増えることを期待したい。